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東京高等裁判所 昭和24年(新を)3589号 判決

被告人

内田一

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中六十日を原判決の本刑に算入する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人富沢準二郎の控訴趣意第一点について。

仍つて所論甲府刑務所看守長林久松作成の被告人の供述書を検するに右供述書は右林看守長が被告人に代つて同人の任意に供述したところを筆記したものであつて、右林看守長が犯罪の捜査職員として被告人を取調べた上、同人の供述を録取した供述調書ではないことが明白である。而して被告人並に原審弁護人が原審公廷において、これを本件の証拠とすることに同意したことは記録上明らかであるから、それは刑訴法第三百二十六條第一項に所謂被告人が証拠とすることに同意した書面であると解するを相当とする。而して右供述書には被告人の署名押印があるばかりでなく、右供述をなすについて、他人より強制を受け自己の意に反する事実を述べたものと解するに足るべき何等の証左をも留めていない。加之その供述の内容を被告人の検察官に対する適式な供述調書にして原審公廷で、証拠調手続をなされたものの中にある被告人の供述記載内容と比較すると、その主旨は互に一致し毫も矛盾するところを存しない事より推察すれば、右被告人の供述は任意になされた真実のものであると解するを相当とする。尚右の様に看守長が被告人に代つて被告人の供述を筆記し、以て被告人の供述書を作成するのは異例ではあるけれども、法の敢てこれを禁ずるところではない。以上の諸点を綜合考量するときには、右供述書はそのなされたときの情況を考慮し相当と認むべきものである。従つてそれは刑訴法第三二六條第一項によつて証拠力を有するものであり、原審も亦これと同様の考慮の下にそれを原判決の証拠に援用したものと解するを相当とする。所論は畢竟右供述書を以て犯罪捜査の手続として右看守長が被告人を尋問して作成した供述調書であると解した上の主張であるから、右の前提が既に誤つていること前述の通りである限り、所論はこれを採用するに由ない。されば原判決には証拠能力のない証拠を採用したとの所論違法はなく、論旨は理由がない。

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